ローカル5Gが農業や医療分野から求められる理由とは

キャリアがサービスを提供する通常の5Gとは異なり、企業や自治体が局所的な5Gシステムを構築し、プライベートネットワークとして導入・利用可能な「ローカル5G」が注目されています。それぞれ独自に5G基地局や通信システムを構築できるので、多くの企業にとってより身近な存在となるでしょう。今回はローカル5Gが求められ、活用が期待されている分野について、お話していきたいと思います。
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5Gの特徴が求められている分野とは
「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」という特徴を持つことで注目されている5G。スマホの通信技術としても期待されていますが、5Gの特徴がより深く求められ活かされるのはIoT技術です。
ネットワークを通してサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換される仕組みを「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」と呼びます。現在、世界各国では少子高齢化や都市部への人口集中といった問題が発生し、それに伴いあらゆる社会問題が引き起こされています。しかしIoT技術の発達により、人手不足や技術継承といった、人口減少に伴う問題への解決策として活用されていくでしょう。
これまで主流だった4Gは、2010年代に普及した通信規格です。4Gの登場により、モバイルデバイスの通信やゲームなど、大容量のコンテンツもスムーズに行えるようになりました。一方でIT専門調査会社である「IDC Japan」の調査によると、2025年における世界のIoT機器の普及率は2018年の2倍になると予測されています。年間データ生成量予測はなんと6倍にも及び、とても4Gではデータ処理が追いつきません。「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」という5Gならではの特性こそが、これから訪れるIoT時代を支えてくれるでしょう。
ビジネス現場で期待されるローカル5G
ビジネス現場で5G活用に期待されているのが、「ローカル5G」です。ローカル5Gとは、小規模な5G通信環境を自前で構築できる技術です。通信事業者以外の事業主体でも独自に基地局を設け、5Gシステムを構築運用することが可能です。日本では総務省が「通信キャリアに依存せず5Gのネットワークを構築する方法」を発表しました。総務省の発表によると、ローカル5Gは通常の5Gと比較すると、次のような特徴があると挙げられています。
・通信事業者によるエリア展開が遅れる地域においても、5Gシステムに先行して構築が可能
・用途に応じて必要な性能を柔軟に設定できる
・離れた場所の通信や災害などの影響を受けにくい
簡単に言うと、小規模な5G環境を企業や自治体が独自に構築できることが、ローカル5Gの大きな特徴と言えるでしょう。これから多くのIoT機器が導入されていくと予想される工場、医療現場、農業、各自治体などで求められています。
ローカル5Gが活躍するスマートファクトリー
ローカル5Gはさまざまな分野で活用が期待されていますが、その中でもとくに注目されるユースケースの一例が、「スマートファクトリー」です。スマートファクトリーとは、デジタルデータを活用した工場のことを指します。工場のIoT化を実現することにより、業務プロセス改善、品質、生産性の向上といったメリットが期待できるでしょう。
近年において工場では、人手不足が大きな問題となっています。その問題を解決するための手段として、自動化による生産性の向上が挙げられているのです。またセンサーやロボットなどの機器を導入している工場も増えており、ネットワーク無線化のニーズも高まっているようですね。スマートファクトリーにおいて、5Gよりもローカル5Gの相性が良いとされているのをご存じでしょうか。ローカル5Gは公衆サービスではなく、企業や自治体が独自にシステムを構築、帯域を占有できます。そのため外部の影響を受けにくく、通信の安定性が高いという特徴があります。
またローカル5Gはオープンネットワークに接続しなくていいので、セキュリティ面でも安心ですね。工場では外部に漏れたら困る機密情報も大量に扱っています。ローカル5Gなら、データ内容はもちろんデータ量から推察される稼働率も外部に悟られることがありません。
さらにキャリアの5Gはエリア展開できる場所が限られています。キャリアの基地局が設置されていない場所では利用できません。しかしローカル5Gなら希望する場所にシステムを構築、展開することが可能となります。導入時期も都合に合わせて決められるので、スマートファクトリーでの導入が進められています。
ローカル5Gが求められる分野
ローカル5Gが求められているのはスマートファクトリーだけではありません。他にもローカル5Gの活躍が期待されている業界を見ていきましょう。
医療分野
医療においても5Gとの相性が良いとされており、とくにオンライン診療や救急医療での効果が期待されています。オンライン診療は医師間でやり取りを行う「D to D」と、医師と患者間でやり取りを行う「D to P」があります。D to Dでは、離れた施設にいる医師同士がCTやMRIなどの画像を送受信して、遠隔診断などを行います。5Gは4GやWi-Fiと比べても、高精細な画像の送受信をタイムラグなく行えます。そのため診断までのスピードが向上し、見落としや見過ごしも防止できるようになるでしょう。
手術での活用も進められています。IoT技術と5Gにより、遠隔地でも手術の様子が瞬時に把握できるようになるので、双方が同じ現場にいる感覚で手術が取り組めます。2019年11月には広島大学とNTTドコモが実証実験を行い、5Gを用いて治療室と医局を接続し、リアルタイムで遠隔手術支援に成功したと発表しました。
日本には離島や僻地など、満足に医療を受けられない地域も少なくありません。また新型コロナウイルスの影響で、オンライン診療のニーズが高まっています。今後の医療分野ではIoTの発展が期待されているため、5Gは必須と言えるでしょう。
農業分野
農林水産省でも推進されているスマート農業においても、ローカル5Gの導入は欠かせません。スマート農業とは、ロボット技術やICTを活用して省力化、精密化、高品質生産を実現することを指します。すでに現在でも、ドローンなどを用いて畑やハウスを見守る技術が農家に取り入れられています。カメラやセンサーを搭載して画像分析に活用するロボットも登場しており、自動運転などのトラクターも用いられています。ローカル5Gを導入すれば、さらに作業効率化が進むでしょう。
たとえばドローンで撮影した画像をAI分析し、そのデータを自動運転のトラクターと連携させれば、作業指示が自動で行われます。ロボットとAIを組み合わせることにより、摘果の判断、作物の形やサイズの選別なども行えるようになるでしょう。近年では農業分野においても人手不足が悩みの種となっています。しかしスマート農業が必要となる地方ほど、キャリア5Gの整備は後回しになると予想されています。そのため、ローカル5Gの導入が求められているのです。
自治体
AI・RPAなどを活用し、作業の高度化・効率化を進める「スマート自治体」。総務省でもスマート自治体の実現が推進されています。職員や住民の負担を軽くするため、RPAによる職員の作業効率化、ICT活用によるテレワークの推進、AIを使ったドローンでのインフラ点検などが取り組まれています。以前からスマート自治体に取り組んでいる自治体もありましたが、5Gの登場により急速に普及することが期待されています。
ローカル5Gの導入でどのように変化するか
これまで解説したように工場施設、建設現場、農場、医療、自治体など、さまざまな無線化の実現にローカル5Gが役立つでしょう。
ビジネスの現場では、通信技術を用いるために多くのケーブルが張り巡らされており、作業範囲や機器のレイアウトが制限されていました。しかしローカル5Gの活用で無線化が進めば、こういった制限が解除されます。敷地内のどこにいてもネットワークに接続できるようになれば、ニーズに応じて生産ラインを組み替えられるようにもなります。
IoT機器を用いて工程におけるさまざまなデータを収集し、AIによる分析を行うことで、熟練者がその場にいなくても適切な判断・操作が行えるようになるでしょう。一人の優秀な専門家が、複数の現場に指示を出すことも期待されています。農産業分野では高性能カメラを用いて、家畜の個体識別を行う実証実験も行われています。自治体では管理する河川の遠隔管理などに、ローカル5Gが活用されることも期待されているようですね。
エンターテイメントにおいても、スタジアムやテーマパークで超臨場感・没入感体験システム、VRアトラクションなどが注目されています。このようにローカル5Gはさまざまなニーズに対応できるので、多くのビジネスチャンスを生み出し、ビジネスの形態そのものを変えていく可能性を秘めています。
まとめ
今回はローカル5Gが求められる理由について解説しました。
企業や自治体が独自に構築・運用できるローカル5Gは、キャリア5Gの普及が遅れる地方ほどニーズがあります。とくに人手不足や熟練の専門家不足が悩みの種である、医療や農業分野でのニーズも高まっています。ローカル5Gにより、大容量でもタイムラグのないデータの送受信が可能になれば、作業効率が劇的に向上します。
また外部通信の影響も受けにくく、情報漏洩の心配も少ないので、機密情報を扱う施設ほどメリットが大きくなるでしょう。ぜひこの機会に、ローカル5Gの導入・活用を考えてみてはいかがでしょうか。