ローカル5Gは工場の業務をどう変えるのか

3月末、日本でも3大携帯キャリアで5Gサービスの商用化が開始されました。未だ利用できるエリアは広くないものの、高速、大容量の通信が可能になるとして、様々な業界で期待されているネットワーク技術です。

その、キャリアの5Gともう一つ、企業や団体などが5Gと同様の性質を持ちながら独自のネットワーク環境を構築できる『ローカル5G』というネットワークがあります。このローカル5GはWi-Fiよりも広範囲をカバーすることができるとして、工場などでの利用も期待されているところです。

そこで本記事では、ローカル5Gの工場での利用について解説してまいります。

ローカル5Gは広範囲での利用が可能

そもそも、ローカル5Gは範囲を指定して独自のネットワーク環境を構築するものですので、これまで多くのビジネスで活用されてきたWi-Fiシステムと変わらないのではと思われがちです。

ただ、Wi-Fiは狭い場所をカバーするのには向いているのですが、大規模な工場や面積の広い建物などにはあまり向いていないため、工場でネットワークを利用するには多くのWi-Fiを設置するか、キャリアの通信回線を利用するかしかできませんでした。

しかし、その点ローカル5Gはもともとキャリアの通信回線をもとにしたネットワークであることから、広範囲をカバーすることができるため、工場などの面積の広い建物での利用が推進されています。また、ライセンスバンドを使うローカル5Gなら電波干渉は起こりにくく、大容量通信を安定的に実現することが可能です。上り通信に多くの帯域を割り当てるなど、用途に応じた柔軟な運用もできるようになることから工場におけるAi技術の導入促進や、デジタル化などを後押しするきっかけともなるでしょう。

ローカル5Gで工場業務に起こる変化

工場がローカル5Gを導入することで、業務内容や業務効率をデジタル化して可視化し、効率の悪い部分を改善することができるようになります。例えば、ネットワークカメラを導入してそれらの内容をすべてデータとして保存し、新人教育等に利用することも可能です。特に、Aiなどもローカル5G時代のバズワードとして多くの場所で取り上げられています。

ここからはローカル5Gを導入することで工場業務に起こる変化について解説します。

Aiの導入ができる

1つ、工場のデジタル化として注目されているのがAi技術の導入です。前述にも、ネットワークカメラで業務をデータ化し、新人教育に利用することができると申し上げましたが、新人教育への利用だけでなく、Aiのディープラーニング技術を活用して、Aiに業務を行わせることができる場合もあります。

たとえば単純な作業はAiが、それ以外の作業は人間が行うなど、たとえ新人でもベテラン作業員と同じくらいの業務スピードを実現させることが可能です。

ただ、このAiのビッグデータを処理するには当然高速で大容量の通信が必要になりますので、ローカル5Gの導入が必須になってくるということになります。

ロボットの導入ができる

それから、ローカル5Gはキャリアの5Gと同様の性質を持っていますので、もちろん遠隔操作なども可能です。工場の中の一部にエラーが出た場合や、すぐにその場に行って修理することができない場合など、遠隔操作が可能なロボットを活用することですぐに対応することができるようになります。

ローカル5Gは、リアルタイムとの誤差がほぼゼロであるとアナウンスされており、タイムラグによる操作ミスなどもほとんど起こりません。

業務の最適化

ローカル5Gを導入することで、先ほどAiの部分で触れた『カメラ』の映像を、4Kや8Kなどの解像度で撮影し、より詳細な分析結果を得ることができるようになります。

どうしても画質が悪いデータでは、Aiは正式なデータとして読み取ることができない場合がありますが、高解像度な映像をもとに業務解析を行うことで、工場の業務最適化にとって最も良い方法を選ぶことが可能になるでしょう。

工場のローカル5G導入への課題

ただ、現状の工場ではネットワークの配線が複雑な工場も多く、ローカル5Gを導入するには、ネットワークの省配線化、シンプル化も必要になってきます。

製造業では現在、変種変量生産という新たなトレンドに対応するために、機械・設備配置の柔軟性とシステム構成の自由度を高めることが求められています。しかし、それには前述の配線のシンプル化が必須になってくるわけです。導入にあたって、この『配線のシンプル化』にどう対応するのかという点がまず1つ目の課題となってきます。

更に、免許の申請等も必要となり、Wi-Fiの導入やプライベートLTEなどでは必要のなかった作業も必要になります。当然導入コストもそれらの通信システムよりは高値であるでしょう。

工場へのローカル5G導入は導入のための環境整備と合わせて、工場内でローカル5Gを活用しないとできない業務の明確化や、最も必要とされる場所などを明確にしておくことが大切です。

ローカル5Gの市場は2030年には200倍の予想

昨年2019年の12月からローカル5Gの免許申請受付が始まりましたが、JEITA(電子情報技術産業協会)は2019年12月19日、WAN5G、いわゆるキャリア5Gの市場規模と併せて、ローカル5Gの市場規模も発表しています。

まずキャリアの5Gについては、2020年の世界需要額が7.9兆円、国内需要額が0.3兆円というのに対して、10年後の2030年には世界需要額が約20倍の157.5兆円、国内需要額が30倍の9兆円になるとしています。

一方、ローカル5Gについては、2020年の世界需要額が0.1兆円、国内需要額が62億円にとどまるものの、10年後の2030年には世界需要額が約100倍の10.8兆円、国内需要額が200倍以上の1.3兆円と大幅に拡大するとの予想が発表されています。

WAN5Gとローカル5Gの市場規模
引用元:JEITA https://image.itmedia.co.jp/l/im/mn/articles/2001/08/l_sp_200108local5g_03.jpg

また、上記の画像を見てもわかるように、ローカル5Gは比較的大規模の場所での利用が主です。公共の場所ではキャリアの5G通信で対応できるものの、工場や農場、病院などではプライベートネットワークとしてローカル5Gの導入が今後も推進されていくことが観て取れます。

今や自宅や会社などでWi-Fi環境が必須になったように、今後工場などではローカル5Gの導入が必須になってくるといえるのではないでしょうか。

まとめ

本記事では工場にローカル5Gを導入することで、業務はどう変わるのかという点について解説いたしました。

これまでローカル5GはWi-Fiと同じようなモノなのではという認識があった方も少なくないのではないでしょうか。しかし実はローカル5Gはキャリア5Gと同様の性質を持っていながら電波干渉などがほとんどなく、広範囲を安定した通信環境として整備することができますので、工場などの場所で重宝されるとされています。

実際に、ローカル5Gは2030年には現状の約200倍に需要が拡大しているとの予想もありますので、今後工場へのローカル5G導入は必須ということになってくるかもしれません。