漁業だってスマートに。5G実現化に向けた利活用

5Gというと、適用できる業界は一部に限定されると考えがちかもしれません。しかし5Gのネット活用により、遠隔漁業の実現可能性が高まっているのをご存知でしょうか。地方創生、地域の基幹産業としての第一次産業。“食”に関係した漁業分野における地方創生の取り組みは、全国各地で進められています。

今回はKDDIが取り組んでいるスマート漁業についてご紹介するとともに、5Gを漁業に取り入れるメリットについて解説していきます。もちろんデメリットや課題点も想定されますので、そちらについても紹介します。

  

KDDIが取り組むスマート漁業について

大手通信事業者のKDDIは、通信事業者でありながら地方創生に取り組んでいます。

始まりは2012年、東日本大震災後に発足した被災地復興支援・地域活性化事業を担う「復興支援室」でした。2017年には「地方創生支援室」と名称を改めております。日本全国各地の地方創生、第一次産業などに関して、同社の通信技術やIoT技術を用いて貢献する方針が発表されています。特に漁業分野における取り組みは、全国各地で進められているのをご存知でしょうか。KDDIが取り組んだ事例を紹介します。

サケ定置網の漁獲量予測(宮城県東松島市)

課題

松島市では、定置網漁は漁獲が予測できず、空振りで燃料代がかさむという課題を抱えていました。この課題は燃料コストがかかる上に、環境負荷も少なくありません。

取り組み

KDDIの取り組みでは、データ活用による漁獲高の事前予測を行いました。水温などの取得データを活用し、漁獲高予測モデルを作成。予測精度7割強を実現しています。漁師の経験を見える化することにより、今まで勘に頼っていた部分を補えるようになりました。

たとえば「シケの翌日は魚がよく獲れる」「水の色を見れば何の魚がいそうか分かる」など、長年の漁師の経験をデータ化したことで、漁師自身も気付いていなかった法則を発見。さらにデータ収集・データ解析による漁業の効率化はもちろん、直販モデルの可能性をリサーチすることにより、ビジネス展開の幅も広がります。また定置網漁で海洋ビッグデータを活用することで、人件費・燃料費などもコスト削減にも成功しました。

「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト(福井県小浜市)

課題

小浜市は鯖の養殖業において、漁労支出の6割以上を餌のコストが占めていました。また同市は、かつて日本有数の鯖の漁場として知られ年間3500トンもの水揚げがありました。しかし近年では激減しており、『鯖、復活』養殖効率化プロジェクトが発足され、KDDIがテクノロジー面で支援しています。

取り組み

KDDIのIoT技術を活用することにより、給餌量を最適化して餌代を抑止しました。生け簀の水温や漁師の給餌量を、IoTセンサーとタブレット端末で記録、管理することで、取得した環境と給餌量のデータ相関を分析します。その結果、給餌計画を最適化するPDCAサイクルが確立されました。

鯖は皮膚病になりやすく、高い水温にも弱いという特徴があります。この性質のせいで養殖に不向きとされていましたが、KDDIはIoTを活用して向き合っています。生け簀や周辺の水温、酸素濃度、塩分といった環境データをセンサーで自動測定。それらのデータは無線通信回線を用いてクラウドに送信され、漁師が持つタブレットやパソコンに給餌計画が表示されます。これにより、実際の給餌量データをクラウドに送信して管理できるようになりました。さらにこれらのデータをより詳しく分析した上で、鯖養殖に適した環境条件や給餌量など、養殖に適切な条件を導き出す試みもなされています。

マグロ養殖基地化(長崎県五島市)

課題

マグロ養殖業において、赤潮は魚の大量死を招く重大リスクを抱えています。魚の大量死は産業へのダメージに繋がるので、大きな課題とされていました。

取り組み

KDDは赤潮を早期検知することで、被害を未然に防止する試みが取られています。ドローンを用いた採水、画像解析を用いた水質検査により、赤潮診断がスピーディーに行えるようになりました。さらに赤潮発生を養殖事業者へと迅速通知する、スマートデバイス向け周知システムの開発もなされています。 

現在五島市では、魚の養殖にドローンとAIが活用されています。従来は養殖業者が実際に船を出して、生け簀周辺の海水を汲んで分析専門家に依頼する必要がありました。現在ではKDDIの取り組みにより、ドローンを使って遠隔で海水を採取。AIによる画像解析にかけることで悪玉プランクトンを検出し、赤潮発生の恐れがあると判断した場合には、自治体や養殖事業者に通知が入るようになっています。

この試みによって、従来は採水から通知まで半日ほどかかっていた時間を、15分程度に短縮できるようになりました。動画分析の精度がさらに高まれば、五島市のクロマグロ以外にもさまざまな魚介類養殖に適用できる可能性があります。

漁業に5Gを取り入れるメリット

現在もスマート化が進められている漁業分野ですが、5Gが取り入れられることには、どんなメリットがあるのでしょうか。考えられるメリットを一つずつ紹介していきます。

地方創生に貢献できる

5Gは工場や建設、物流など産業用途で注目されていますが、5Gが解決できるのは、ビジネス課題ばかりではありません。日本のあらゆる地方では、人口流出による少子高齢化に悩まされる土地も少なくありません。しかし5Gを取り入れてIoTやネットワークを活用すれば、地方が抱えるさまざまな課題解決に繋がるでしょう。

たとえば農業・漁業といった一次産業の人口は、全国的に右肩下がりとされ、都市部への人口流出が続いています。地域・産業のニーズに応じて、地域の企業や自治体が個別に利用できる「ローカル5G」なら、地域の特色を生かした活性化が期待できます。5Gを活用して生産効率や収益の向上を実現できれば、若者が地元にとどまれる仕事も増加するでしょう。

遠隔地からでも手軽に漁業ができる

従来の漁業では、先輩漁師が若者に言葉や作業で漁業技術を伝える必要がありました。5Gを活用したIoT技術を駆使すれば、長年勘や経験に頼っていたことをデータ化できます。直接面と向かっていなくても、スムーズにノウハウが伝えられるようになるでしょう。

また見える化したデータをネットワークに接続することで、遠隔地でも事象が把握できるようになります。漁に出ている船がどこにいるのか分からない時も、GPSを搭載した小型機器を各漁船に設置しておけば、現在位置を特定できるようになります。遠隔地にいても手軽に漁業に参加できるようになり、技術継承もスムーズに行えるようになるでしょう。

養殖の作業などの効率化

海中の養殖水産物は直接目視しにくいので、勘に頼って手入れしている部分もあるのではないでしょうか。5Gを活用することにより、養殖魚の生育状況を遠隔からリアルタイムで確認できるようになります。

センサーブイを海上に設置しておけば、クラウドサーバーに水温や塩分濃度を測定され送信されます。クラウドサーバーに蓄積されたデータは、スマホにダウンロードしたアプリで簡単に確認できますよ。経験の勘やノウハウだけではなく、蓄積データと組み合わせることで適正な手入れが行えるようになるでしょう。作業メモの記載や、仲間同士での意見交換も行えます。

AIを活用するともっと便利に?

5GとAIを組み合わせることにより、漁業はさらに効率化されて便利になります。たとえば水産加工品の状態を、AIで画像判別するという方法が想定されます。従来は人の目により、一級品と二級品以下が判別されていたかと思われます。しかし少子高齢化に伴う熟練技術者の減少や、後継者不足に悩まされている地方は少なくありません。

そんな時に有用なのはAIによる画像判別です。生産ラインにカメラを取り付け、映像を撮影。撮影した映像をAIで分析することにより、個数の計測や一級品・二級品の判別が行われます。精度が高い上にスピーディーに判別されるので、効率化に繋がるでしょう。

 過去のデータを瞬時にデータ化できる

5Gの特徴には大容量・高速通信、多接続などが挙げられます。この特性を活かすことで、過去の海洋データ、気象情報、漁獲量情報などが瞬時にデータ化されます。いちいち過去の文献を探さなくてもスマホやパソコン上でお手軽にデータを確認できるので、船を出すかどうかといった判断や、今年の漁獲量予測などが立てやすくなるでしょう。

漁業に5Gを取り入れるデメリット

漁業に5GやIoT技術を取り入れるメリットは多く存在しますが、その反面以下のようなデメリットも考えられます。

テクノロジーに詳しい人材の不足

5GやIoT技術を使いこなすためには、ある程度の知識が必要になります。これらのテクノロジーをすくに活用できる人はあまり多くなく、サポート体制の充実や、テクノロジーに精通した人材の育成が喫緊の課題とされています。今まであまりデバイスやテクノロジーに触れてこなかった人にとっては、ハードルが高いと言えるでしょう。

新たな作業負担増

テクノロジーの導入にあたっては、漁業が和にも金銭・時間・技術的な負担がのしかかってきます。またタブレットやパソコンを用いたデータ収集・分析などに慣れない人は、実際に対応できるようになるまでに、相応の時間がかかるだろうと予測されています。

漁業に5Gを取り入れるときの課題点

5GやIoT技術は漁業を効率化してくれますが、特有の課題も抱えています。導入の際には以下のポイントにも注意してください。

イニシャルコストが高い

5GやIoT技術の導入は、他の機械と比べてもイニシャルコスト(初期導入費用)が割高です。また導入できたとしても、活用が始まったばかりのテクノロジーでは費用対効果の見通しが立てにくいという側面もあるでしょう。農業分野においては、結局うまく活用できずに使用を断念したという事例も見受けられます。こうした事例を踏まえた上で、導入する際に検討してください。

機器のデータ形式にばらつきがある場合も

IoT技術を搭載した機器は、メーカーごとに特色のばらつきが見受けられます。とくにソフトウェアやデータ形式の標準化は大きな課題とされています。長期的な視点では、データの保存や管理、移行まで視野に入れておく必要があるでしょう。しかし独自のシステムや規格に分かれていると相互運用が難しいという点も、大きな課題とされています。

まとめ

自然環境に左右されやすい漁業において、効率的な作業には熟練の漁師の勘や経験が必要でした。しかし少子高齢化に伴う熟練漁師の減少や、担い手不足といった問題が発生しています。5GやIoT技術には、それらの課題を解決してくれる糸口があります。

熟練漁師の勘や経験の見える化、気象情報や漁獲量情報のデータ化により、現在の漁業が抱える問題が解決されていくでしょう。さらにAIやドローンなどの最先端技術を駆使することによって、養殖や加工にも活用できます。今回紹介した事例を踏まえ、これからの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。