登山客を見守る『5Gドローン』

ドローンは子供用のおもちゃとしても販売されており、最新技術のなかでも身近に感じる方が多いのではないでしょうか。中でも、上空からのリアルタイム映像を配信することができる点から、登山客の見守りに活用できると話題になっているのが、『5Gドローン』です。

5Gドローンを活用することで、登山客の遭難を未然に防いだり、万が一の場合にいち早く救助活動ができるとすれば、どのような方法があげられるでしょうか。実際に行われた実験をもとに解説していきます。

5Gドローンを用いた実験

KDDIは2019年10月16日、信州大学、駒ケ根市、PRODRONE、中央アルプス観光と共同で、5Gドローンを活用した登山客の見守り実験を行いました。

実験を行った長野県は、北アルプス、八ヶ岳連峰など日本を代表する山岳を有する県です。そのためか、日本国内で最も山岳遭難事故の発生件数が多い状況にあり、救助の際も遭難者の位置確認や現場の状況確認が困難な場合が多いとされています。

その問題を受けて、現在、長野県にある信州大学では登山者の位置情報を把握し見守る『山岳登山者見守りシステム』の開発を手がけています。今回行われた実験では、山岳登山者見守りシステムによって遭難の可能性がある場所に5Gタブレット、4Kカメラ、拡声器を搭載したドローンが自立飛行で現場の状況を把握しました。

それを受けて救助活動を行うなどのデモンストレーションも実施され、5Gの高速大容量通信を活かした4Kカメラと拡声器での呼びかけをすることで、正確な状況把握や遭難者の身体状況の判断ができ、救助活動が迅速に行えるようになることが分かりました。

5Gを活用した山岳登山者見守りシステム

KDDIが実施した実験でも利用された『山岳登山者見守りシステム』について詳しく掘り下げていきたいと思います。

5Gの見守りシステム:登山者位置把握

5Gは高速かつ大容量の通信が可能です。しかし、5Gには山奥など電波が届かない場所などが存在します。そこで、山岳地全体の通信をカバーすることができる『150MHz LPWA通信システム』と5Gの両方を活用し、電波の途切れをなくすことが可能になりました。
ただ、『150MHz LPWA通信システム』は広い通信エリアと高い回折性を持ちますが、通信速度が遅いというデメリットがあります。そのデメリットを5Gで補うことで常時の登山者見守りが実現したのです。

登山者見守りシステムで利用される5Gドローンは、5Gに対応したタブレット、4Kカメラを搭載したドローンを自立飛行させることで、登山者の位置を把握することができるようになります。
また、ドローンだけでなく、入山時に借用される登山者端末と捜索隊などが所持する検知者端末を使用した方法もあります。
このように、GPSを搭載した検知者端末と登山者端末をそれぞれ所持することで、常時登山者の位置を把握でき、安全を見守ることが可能です。

5Gの見守りシステム:遭難者救助

これまでの救助活動において、ヘリコプターでの捜索は、地形や気候によっては困難な場合もありました。一方5Gドローンは小型のため、狭い場所などにも入っていくことができます。山岳地帯は特に気候の変化が激しく、1分2分で遭難者の周囲状況が変わってしまうこともあり、これまでの通信では遠隔地にリアルタイムの状況を伝えることはできませんでした。

しかし、5G通信の低遅延という特徴を活かすことで、リアルタイムでの通信が可能になり、より迅速な遭難者救助活動を行うことができるようになります。

また、5Gドローンには拡声器も搭載されていますので、遭難者とコミュニケーションをとることも可能です。その際の呼びかけに対する反応から、遭難者の身体状況を詳しく調べることができます。この時に、通信の遅延があると、通信が遅れているのか、遭難者の反応が遅れているのか正確に判断ができないため、5G通信が活用されるわけです。

5Gの見守りシステム:遭難防止

とはいえ、遭難などの万が一の事故は未然に防ぐことが可能であり、重要です。今後の遭難防止の為に、これまでの遭難発生傾向をデータで蓄積し分析していく必要があります。そうすることで、登山者教育カリキュラムに役立てたり登山道の整備などにつなげたりすることができるようになります。

今後の5Gにおける課題

上記のことが可能になることから、事故を未然に防ぐには、多くの山岳地で山岳登山者見守りシステムを導入することが推奨されます。しかし、広範囲の見守りエリアを確保する技術条件や、登山者端末の使用時間と電池容量のバランス、はたまた端末の普及なども課題になってきます。

更に、救助活動だけでなく、遭難防止や見守りのために5Gドローンを常時飛行させておく場合、それに対する登山客の同意等も必要になってくるかもしれません。

まとめ

これから、世の中で5G対応のスマホが発売されるなど5Gが当たり前になっていくにつれて、5Gの特徴を活かした技術は様々な場所で開発され、有効活用されていきます。もちろんこのような山岳地においても5Gを活かした有効的な救助活動へと変化していくことでしょう。

実現には沢山の課題があるとはいえ、万が一の事故を激減させることが可能になるかもしれない5Gドローンには、ますます期待が高まってきます。