中国の5G事情から見た最新事例とこれから

日本では2023年を目処に、28万局の5G基地局が設置される予定ですが、5Gの商業利用は、まだ進んでいません。5Gを使えば技術革新が始まると評されながらも、実際に5Gを活用している事例はほとんどないのです。そこで参考にしたいのが「中国」の5G情勢です。実は中国は、5Gの最先端国家といわれており、すでに60万局以上の基地局が設置されています。また病院や工場といった施設に、5Gを導入した事例も毎年報告されていますから、中国は日本が手本にすべき存在でしょう。そこで本記事では、中国の5G情勢と、実際にどのように使われているかについて解説していきます。
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中国は5G開発の最先端!
日本でも2020年3月末にようやく商用化が始まった5Gですが、現在5G開発のトップを駆けているのは「中国」です。IHSマークイットの分析によれば、通信規格を決める「3GPP」という団体において、中国企業の5G規格への貢献が59%に到達したと報告しています。
4Gのころ通信規格の主導権を握っていたのは米国でしたから、開発技術力の高さが米国から中国にシフトしていることが分かるでしょう。
(参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000593247.pdf)
ではなぜ中国は5Gの開発競争にリードできたのでしょうか。それは4Gの開発が急がれていた時代にさかのぼります。この時代中国は、4G開発競争に乗り遅れ、世界競争に後れを取る苦い経験をしました。こうした反省から中国は、4Gが普及して間もない2013年から、いち早く5G開発をスタートさせたのです。
5Gは自動運転や遠隔ロボットなど、多くの分野で技術革新を起こす可能性があります。5Gの覇権を握れば、世界においても発言権が大きくなるでしょう。
・5G基地局は69万万局を超える
2019年11月に5Gが始まった中国は、2020年9月末時点で基地局数が69万局を越え、当初の年間計画であった50万局を大幅に上回っています。
(参考:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65312410S0A021C2FFE000)
日本では2023年度末で28万局を予定していますから、設置スピードの差は明らかでしょう。日本では都市部に基地局が集中しており、地方によっては県に1ヵ所しか基地局がないという場合も珍しくありません。
中国では5Gの普及が急速に進んだのは、地方政府の強力なバックアップが背景にあります。中国の通信キャリアは国が保有する国有企業なので、省や市ごとに通信キャリアの子会社が5Gの設備を整えています。政府は5G導入企業に1億円という大型補助をおこなっているため、日本よりも加速的に5G基地局が整備されているのです。
・5Gスマホの加入者数
新型コロナウイルスの影響を受け、世界中でインターネットに頼った生活を送っていることは間違いありません。5G基地局設置が急速に進む中国では、より豊かな生活を求めて、5Gスマホに加入する人口が増加しています。2020年6月には1億人以上が5Gプランに加入したと報道しており、5G対応iphone「iphone12」が発売されてからは、さらに5Gスマホユーザーが増加していくでしょう。
(参考:「中国の5G接続数は2025年に4億6000万」、GSMAが市場動向調査)
中国とアメリカにある5Gの違い
5G開発で中国と競い合っているのが米国です。しかし中国と米国では、5Gに使われている仕組みが違うことはご存知でしょうか。
米国は素早い5G基地局の導入をすすめるために、4G基地局を5G基地局に流用するNSA(ノンスタンドアローン)方式をとっています。NSA方式の場合、初期費用を抑えて5Gを普及させることができますが、5G本来の速度は出ず、4Gと大きな差がないのではないかと言われています。もちろん自動運転や遠隔医療といった革新技術も、NSA方式では実現することは難しいでしょう。
一方中国は、政府の支援や巨大な国内市場を武器に、5G独立の基地局として設置するSA(スタンドアローン)方式を採用しています。SA方式は5G本来の「超高速・超低遅延・多数同時接続」を実現できるため、NSA式とSA式では、速度やタイムラグに大きな違いがあることがわかるでしょう。
5Gの商業利用を考えると、中国のほうが5G開発は進んでいるといえます。
ちなみに日本の5Gについては、こちらの記事がおすすめです。
中国は商業面での5G活用に力をいれていく
中国で採用されているSA方式の基地局は、NSA方式の基地局と比較し高額ですから、5Gを商業化し、早期の資金回収を行いたい考えです。商業の中でも開発事例が増えているのが、スマート工場や、スマート農業といった産業のインターネットと接続し、業務効率化を図る「インダストリアル・インターネット」の分野です。
あらゆるヒトとモノがインターネットにつながる5Gの世界では、ビックデータを収集・解析できるので、業務効率化やコスト削減が図れるのではないかと言われています。
中国の5G導入事例
中国の5Gは、世界に先駆けて商業面での導入が始まっています。5Gの商業化に向け目が離せないのが「ブルーミングカップ(綻放杯)」です。ブルーミングカップでは5Gの導入事例を紹介するコンテストとして2018年に始まり、2020年の5Gの導入事例件数は4,289件となりました。以下で2020年のブルーミングカップで選出された事例をいくつか紹介します。
・スマート工場
江蘇省の精密部品工場では、検査工程に5Gを活用したAI画像判定を導入しました。AIの画像判定では、部品の欠損や規格外の製品を自動で見分けることが可能です。結果的に、これまで300人の従業員をかけていたチェックを、AIのみで完了させることができるようになりました。
・スマート医療
東軟漢楓医療科技という企業が病院に向けて開発したのが、遠隔のエコー診断です。瀋陽市の中国医科大学付属盛京医院からエコー機器を遠隔操作し、50km離れた病院にいる患者の診断に成功しました。画像や音声をリアルタイムで送受信できるのは、5Gの低遅延があってこその技術でしょう。
・スマートバス
新エネルギー車ブランドとして有名な吉利新能源が、コネクティッドカーのネットワークを手がけるSOYEAと共同開発したのがスマートバスです。バスに20台のカメラを設置し、カメラ映像をリアルタイムで処理することで、自動運転を実現しました。さらに支払いは顔認証を使った自動支払いが可能になりました。
まとめ
4G開発時に競争に乗り遅れた中国は、5G開発においては、世界最先端として輝いています。また中国は、5Gを使った商業化にも一足早く乗り出していますから、農業や工業など、産業の5G化が進めば、私たちの暮らしはさらに豊かになっていくでしょう。
中国で5Gの商業化が成功しているということは、日本でも成功するチャンスはあるということです。まだ5G基地局は限定的ですが、政府や各キャリアの動きに今後とも注目していきましょう。