大手携帯3社、共同で過疎地に5Gエリア構築の方針

2020年9月、携帯大手三社であるdocomo、Softbank、auは過疎地における次世代通信規格である「5G」の基地局整備に協力すると発表しました。基地局の建設にかかる費用などを分割することで、都市部に比べて約10倍以上にも及ぶインフラ整備コストを抑える方針です。
5Gは通信業界だけではなく、メディア、金融、農業、工場、さらに遠隔医療といった分野での活用も期待されています。それだけに少子高齢化に伴う労働人口不足が悩みの過疎地において、5G整備は注目されています。都市部に比べると現時点では対応エリアも少なく、整備が後回しになるのではないかと懸念する声もありました。今回は5Gが行える過疎地への支援や、過疎地における5G構築などの問題について、ご説明いたします。
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過疎地への5G構築における問題
5Gはあらゆる業界で、さまざまな産業の形を変え、デジタル化の基盤を築くことを期待されています。5Gはこれまでの通信規格「4G」と比べても圧倒的な高速通信・低遅延・多数同時接続といった特徴を持っています。
5Gを活用して、あらゆるモノがネットにつながるIoT社会が実現すれば、生活や仕事においてこれまでの常識を覆すでしょう。
たとえば遠隔医療では、東京にいる専門医から指示を受けながら遠隔で処置することも不可能ではありません。低遅延通信により、移動中でも高精細映像を用いた遠隔手術が実現できるでしょう。農業においては、農業センサーが収集した情報をもとに、ドローンやロボットを活用して水やりや肥料散布が可能になります。
こうした産業における5Gの活用は非常に注目されており、とくに高齢化に伴う労働力不足が課題の過疎地においては期待が高まっています。一方、現時点では5Gの対応エリアは都市部のごく一部に留められています。利用人口が少ない地域では投資効率が悪いと見なされ、整備が後回しになるのではないかとの懸念の声も少なくありませんでした。その施策として大手三社が共同で過疎地への支援を行おうとしています。
大手3社が組んで過疎地に5G構築
そんな懸念の声に応える形でdocomo、Softbank、auの国内大手三社が、過疎地における5Gエリア構築に協力すると発表しました。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループの大手三社は、山間部など人口が少ない過疎地において、5Gの基地局を100局ほど建設する方針で合意しました。100局は当初の目標であり、今後はさらに数を増やしていくと発表しています。
この協力には、どのような意図があるのでしょうか。総務省でも大手三社の5G電波割り当てに伴い、山間部や海岸部といった人口が少ない地域において、産業用途を前提とした5G環境の整備を求めています。総務省では全国を10キロメートル四方に区切り、約4500のメッシュ(網の目)を事業展開が可能なエリアとしました。大手三社はこの中でも3、4割を占める過疎地でも協力すると発表しています。
三社はいつ頃までに、どの程度の設備を整備する予定なのでしょうか。発表では2021年6月までに、それぞれ約1万局を整備する計画となっています。三社は基地局の建設を分担し、光ケーブルなどの伝送路を共同で整備します。協力することで整備する時間が短縮され、費用も分担されるので建設・整備にかかるコストも削減されます。整備された設備は、三社で共有することになっています。
過疎地においては、基地局や交換機を結ぶ伝送路が整備されていないケースもあり、そうした場所を整備するとなると建設費用は、1局あたり数億~数十億円とも計算されています。これは都市部に比べると8~10倍にも及ぶ数字であり、建設・整備にかかる費用もまた、過疎地における5G環境整備のネックとして挙げられていました。また国や自治体からの補助を受けることも想定しており、山間部の工場などでの5G需要に応える姿勢も見せています。
5Gでできる過疎地への支援
5Gは「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴を持っています。これらの特徴は、過疎地域における支援にも活用できると総務省は見解を発表しています。現在、過疎地では少子高齢化に伴うさまざまな問題が発生しています。具体的には以下のような事柄において、5Gは支援してくれるでしょう。
交通網の整備
過疎地では高齢化に伴い、移動手段を持たない高齢者が増加しています。平成18年度から23年度までの6年間で、全国11,160kmの乗り合いバス路線が廃止されたのをご存じでしょうか。現代では、地方における移動手段の確率、交通弱者への支援が喫緊の課題となっています。
5Gの低遅延通信により、自動運転システムの実現が期待されています。乗り合いバスなど交通機関が利用しにくい地域でも、自動運転タクシーなどを好きな時に利用できるようになるでしょう。
高齢者支援
高齢者人口が増加する日本では、高齢者の見守りも身近かつ重要な課題となっています。5G技術を活用したインターネットの拡張により、今までよりも便利かつ効率的な見守りが実現されると期待されています。
たとえば高齢者施設などにおいて、精度の高いカメラで同時に複数の利用者の様子を一元チェックが可能になるでしょう。安全性を高めると同時に、安否確認、徘徊防止に関連する施設スタッフの負担が軽減されます。屋外や公共空間における防犯カメラの精度も向上するので、公的機関における見守りの範囲も幅広くなり、事故や徘徊への対策として有効です。
また農業人口は、65歳以上が全体の6割、75歳以上が3割を占めるなど、高齢化が進行しています。5Gを活用したIoTシステムの導入により、高齢者の農業労働も支援してくれます。農業に関するさまざまな情報を農業センサーが集め、給餌ロボットや散水・薬剤散布ドローンなどと連携させることで、自宅にいても畜産/農作業管理が実現されるでしょう。
食料品等配達のスムーズ化
5G時代には、身の回りのあらゆるモノがネットワークにつながるIoTシステムも活躍が期待されています。過疎地においては近くに食料品の買い出しを行うスーパーが限られていることもあり、食料品配達や移動スーパーのニーズが高い傾向にあります。5Gの多数接続、低消費電力などに対応したセンサーが普及することで、買い物の形が変わっていくでしょう。
5G時代には、身の回りのあらゆるモノがネットワークにつながるIoTシステムも活躍が期待されています。過疎地においては近くに食料品の買い出しを行うスーパーが限られていることもあり、食料品配達や移動スーパーのニーズが高い傾向にあります。5Gには多数接続、低消費電力、低遅延といった特徴があります。
たとえばネットで注文した食品を、情報を共有したドローンなどで、過疎地まで配達することも可能となるでしょう。5Gの通信網であればドローンとの通信も安定し、高精度映像などのデータを送受信しやすくなります。交通網が脆弱な離島や山間部であっても、必要な食料品などを短時間でスムーズに配達できるようになると期待されています。
また、2019年には、楽天と西友が協力してドローンを活用した配送サービスを開始しました。このサービスは横須賀市の猿島で提供され、猿島の対岸にある西友 リヴィンよこすか店が配達拠点となっています。利用者はスマホアプリを利用して食料品や救急用品などを注文し、決済は楽天ペイで行われ、ドローンにより配送されます。
5Gが本格的に普及すれば、大容量化、高信頼性・低遅延という特徴により、この技術がレードアップしていくと期待されています。管制システム・配送システムとリアルタイムかつシームレスに結合していくことで、過疎地への食料品配達がスムーズになっていくでしょう。
インフラ整備
5G技術はインフラ整備でも活用が期待されています。建設業就業者は55歳以上が約34%、29歳以下は約10%という数字が発表されており、やはり高齢化が進行しています。建設やインフラ整備といった分野でも、5Gとドローンなどを活用した高精度な測量、重機の遠隔・自動操縦などが期待されており、実現すればインフラ整備が今以上にスムーズに行えるようになるでしょう。
また豪雪地帯では、超高速通信を活かして、除雪車の位置情報に応じた障害物情報を提供。安全で効率的な除雪作業を支援するシステムの実証も行われています。除雪作業に合わせて中継車から道路状況やゴミ収集状況など、重要生活拠点の高精細映像を市町村の担当者にリアルタイムで中継する試験も実施されました。地域特有のインフラ問題においても、5G技術は活躍していくでしょう。
まとめ
今回は大手三社が協力して行う、過疎地における5G環境整備についてご紹介しました。
過疎地は都市部に比べると伝送路などが未発達なこともあり、基地局の建設には都市部以上の費用が発生してしまします。大手三社が協力することで建設費用を抑え、過疎地における5G環境整備を進めていこうという試みです。少子高齢化、労働人口不足、交通弱者の増加など、過疎地ほど5Gによるイノベーションの需要は高いと言えます。それだけに今回の発表は、非常に大きな意義を持つでしょう。今後も地方や過疎地における5Gの整備状況からは、目が離せません。